ワンカットがもたらすカメラと役者の美しく長いワルツ
制限された時間と空間で95分の映画を、1回のロングテイクで撮る。
<ワンテイク・ワンカット>という撮影を通じて“時間と空間を彫刻する”ことに挑戦した「マジシャンズ」。ある空間で行われるロングテイク映画とは違い、セットからセットへと場面を行き交い過去と現在の時間をワンカットで交錯させる、時空間の変化により、魅惑的なストーリーの語り口が展開する。


「本当にこれは容易ではない撮影でした。俳優も全くどういう映画が出来るか全く分からない状態で撮影に臨んでいたわけです。この映画は35ミリのカメラで撮影するのは不可能でした。35ミリのカメラというのは非常に重いので人間の体力では1時間半もの間、それを支えきれないわけです。で、今回はステディカムというビデオカメラを使って撮りました。とにかくカメラを体に取り付けているわけで、それをつけているだけでも腰が痛くなってしまって、撮影が終わった後も撮影監督はトイレにも行けないほどに腰を痛めてしまったんです。ですから、2人で交替しながら、カメラをお願いしました。特に寒い時に撮りましたので、リハーサルの途中にもう鼻水が出てしまうんですが、鼻水がずっとあごの方までたれてしまっていても、カメラが動いてしまうので、私たちは拭いてあげることが出来なかったんです。」
―ソン・イルゴン監督コメント
(第6回東京フィルメックス公式コンぺティション上映時のQ&A採録より)

パク・ヨンジュン撮影監督は約35キロの撮影機材を装着したまま、バーと森の中のセットを行き交った。テイク時間が長いため、撮影監督とキャストの体力を考慮し、1日2回以上のテイクは不可能だった。

「この撮影で大変だったのは、木の間をすり抜けて撮るということでした。」
―パク・ヨンジュン監督のコメント
(第6回東京フィルメックス公式コンぺティション上映時のQ&A採録より)

現在の空間があるカフェの1階から、過去の空間にあたるカフェの2階、そして過去と現在を共有する森の中までのカメラの移動には、撮影現場を大型演劇舞台のようにすることだった。

「今回の撮影では、本当に照明の数も多かったんです。一般的な商業映画に使われる照明の数からいきますと、大体その3倍くらいはあったのではないかと思います。また、セットもかなり広いセットを作りました。照明のコントロールは大変でした。サウンドにもこだわりました。出来るだけ同時録音をしたいと思っていました。アフレコと言いまして、後から俳優さんの口に合わせて録音するというのは、今回の映画に関して言えば無理だと思っていました。なぜなら、臨場感や現場での雰囲気を大切にしたいと思っていたからです。ですので、韓国映画界で非常に名だたる同時録音のチームを3チーム呼びまして、皆さんに協力いただいて撮りました。それから、クレーンなんかも沢山使って撮ったわけですが、片方のシーンを取っているときにはそのクレーンで撮る人たちは隠れていて、一つの場面を撮り終えると、彼らが出てきて撮るというようなことをしました。」
―ソン・イルゴン監督コメント
(第6回東京フィルメックス公式コンペティション上映時のQ&A採録より)